「避難」と聞くと、避難所に行くことだと思っていませんか。
実は、家が無事なら、そのまま自宅で過ごすほうがいいことがあります。これを在宅避難と言います。国も自治体も、いまはこちらをすすめる方向に変わってきました。
ただし、誰でも在宅避難していいわけではありません。判断を間違えると命に関わります。この記事では、その線引きと、実際に必要な備えを防災士の立場でまとめます。
在宅避難できる条件
まずここからです。次のすべてを満たすときだけ、在宅避難という選択肢が使えます。
- 建物が無事であること……倒壊のおそれ、大きなひび、傾きがない
- 浸水や土砂災害の危険がないこと……ハザードマップで色がついていないか、上の階に逃げられる
- 近くで火災が起きていないこと
- 家の中が安全であること……家具が倒れていない、ガラスが散乱していない
- 数日ぶんの水・食料・トイレがあること
ひとつでも欠けていたら、迷わず避難所へ行ってください。「家にいたい」という気持ちで判断しないことが大事です。
玄関に紙が貼られていたら
大きな地震のあと、建物の危険度を調べる「応急危険度判定」が行われます。結果は紙で玄関などに貼られます。
- 赤(危険)……立ち入らないでください
- 黄(要注意)……立ち入るときは十分注意
- 緑(調査済)……とくに問題は見られません
赤が貼られたら、荷物を取りに入るのも危険です。これは建物が使えるかどうかの判定であって、り災証明書の被害認定とは別のものです。制度の話は災害で被害を受けたらにまとめました。
いちばん困るのは、やはりトイレです
在宅避難で真っ先に行き詰まるのが、ここです。
そして大事な注意があります。水が出ても、すぐに流さないでください。
地震のあとは、建物の排水管や下水道が壊れていることがあります。そこへ流すと、下の階や床下に汚水があふれます。マンションでは階下への被害になり、大きなトラブルになります。
管理会社や自治体から「流してよい」と確認が取れるまでは、携帯トイレを使ってください。1人あたり1日5回、7日分で35回が目安です。
お風呂に水をためておく方がいますが、それはトイレを流すための水ではありません。手洗いや掃除用と考えてください。
家にあるべきもの
避難所には物資が届きますが、家にいる人の分は自分で用意しておく必要があります。
- 水……1人1日3リットル×7日分
- 食料……7日分。備蓄の考え方はこちら
- カセットコンロとボンベ……温かいものが食べられるかどうかで、体力も気力も変わります
- 携帯トイレ
- 明かり……1人1つ。停電の備えもどうぞ
- 情報……電池式のラジオ、充電手段
- 体を拭くもの……断水中に体を清潔に保つ方法
備蓄が「3日分」から「7日分」に変わってきたのは、大規模災害では支援が届くまで時間がかかると分かってきたからです。
物資は、避難所でもらえます
ここが意外と知られていません。
在宅避難をしていても、避難所で食料や水を受け取れるのが一般的です。ただし、そのためには避難所に行って、名簿に登録しておく必要があります。
家にいるだけでは、行政から見て「そこに人がいる」ことが分かりません。安否確認も、支援の対象にもなりません。
だから在宅避難を選んだら、一度は最寄りの避難所に顔を出してください。配布の時間や場所も、そこで分かります。
在宅避難の落とし穴
いいことばかりではありません。
- 情報が入ってこない……給水車の場所、風呂の開放、支援の申請期限。避難所には貼り出されますが、家にいると届きません
- 孤立しやすい……とくに高齢の方の独り暮らしは、誰も来ないまま体調を崩すことがあります
- ご近所との差……「あの家は物資をもらっている」といった感情の行き違いも起こります
だからこそ、1日1回は外に出て、避難所や近所の様子を見にいく。これを習慣にしてください。
マンションで在宅避難するなら
マンションは建物が丈夫なので在宅避難に向いていますが、別の問題があります。
- エレベーターが止まります……高層階なら、水を階段で運ぶことになります。2リットル6本で12キロです
- 停電すると水も止まります……ポンプで汲み上げているため、断水していなくても蛇口から出なくなります
- 排水は勝手に流さない……管理組合の確認を待ってください
- 玄関ドアがゆがむと閉じ込められます……揺れたらまずドアを開ける
高層階ほど、買い出しに出るのが重労働になります。備蓄は多めに持っておいてください。
今日1つだけやるなら、これ
家の水が、何日分あるか数えてください。
3人家族なら、1日9リットル。7日で63リットルです。2リットルのボトルで32本。想像していた量と、だいぶ違うのではないでしょうか。
今日のチェックリスト
- ☐ 在宅避難できる条件を知った
- ☐ 水が何日分あるか数えた
- ☐ 携帯トイレを用意した
- ☐ 水が出てもすぐ流さないと知った
- ☐ 在宅でも避難所の名簿に登録すると知った
まとめ
在宅避難は、家が安全で、7日分の備えがあるときだけ選べる方法です。条件を満たしていれば、住み慣れた家で過ごせるぶん、心身の負担はずっと軽くなります。
ただし、家にこもらないこと。避難所に顔を出して、名簿に載って、情報を取りにいく。これが在宅避難を成立させる条件だと思ってください。
次に読むべき記事
「一番困るのはトイレです。何回分いるのか」
→ 携帯トイレは何回分必要?1人35回分が目安です
「水と食料は何日分か、の目安です」
→ 防災の備蓄は何日分必要?水と食料の目安
「停電の備えは、この3つだけで足ります」
→ 停電したときの備え|明かり・充電・情報の3つ
「避難所を選ぶ場合は、こちらもどうぞ」
→ 避難所のプライバシー対策|視線・音・光をさえぎる
「マンションにお住まいの方は、こちらもどうぞ」
→ マンションの防災|水・トイレ・階段の3つ
「他の記事も見てみたい方は、目的別の目次からどうぞ」
→ 防災、何から始める?目的別の記事まとめ

