防災士が解説|応急危険度判定の赤い紙は「全壊」ではありません|り災証明とは別の制度

大きな地震のあと、玄関に紙が貼られます。赤、黄、緑の3色です。

このうち赤い紙を見て、「うちは全壊と判定された」と受け取る方がいます。これは違います。

令和6年能登半島地震では、石川県の11市町で31,600件の判定が行われ、そのうち12,615件、約4割が赤でした。もし赤がそのまま全壊を意味するなら、こんな割合にはなりません。

赤い紙は「いま入ると危ない」という意味です。支援金や税の減免に使う被害の認定とは、まったく別の制度です。


結論:よく似た3つの制度があります

地震のあと、建物を見に来る調査は1つではありません。内閣府の運用指針は、これらが「目的、判定の基準を異にするもの」であり、混同が被災者に生じないよう、それぞれの実施主体が明確に説明することが重要だと書いています。

  • 被災建築物応急危険度判定……余震で危ないかを見る。地震の直後。無料。玄関に紙が貼られる
  • 被害認定調査(り災証明書)……被害の程度を認定する。支援金・減免・保険の入口になる
  • 被災度区分判定……直すために必要な調査。建築主が建築士に依頼する

玄関に貼られる紙は、1つ目です。お金の話にはつながりません。

り災証明書のほうは災害で被害を受けたら|り災証明書と受けられる支援にまとめました。申請するのは自分です。待っていても来ません。


赤い紙は「全壊」ではありません

内閣府の運用指針には、こう書かれています。

応急危険度判定で「危険」と判定された住家が、必ずしも「全壊」「大規模半壊」又は「半壊」と認定されるとは限らない。

理由は2つあります。

目的が違うから

応急危険度判定が見ているのは、余震で倒れないか、壁や窓ガラスが落ちてこないか、設備が転倒しないかです。建物がどれだけ経済的な損害を受けたかではありません。

同じ指針には、落下物の除去などの応急措置が講じられれば判定が変更されることもあり得るとも書かれています。固定された結果ではない、ということです。

自分の家のせいとは限らないから

隣の建物が倒れそう、擁壁が崩れそう。こういう理由でも赤になります。建物自体は無事でも「いま近づくのは危ない」からです。

この場合、被害認定では「半壊に至らない」になることもあります。

ただし、参考にされる部分はあります

令和の運用指針の改定で、応急危険度判定の結果を被害認定に活用する方向も加わりました。

たとえば「一見して危険」や「建築物の1階の傾斜が20分の1超」といった判定結果を参考にして、「全壊」の認定を行うことも可能だとされています。

つまり「まったく無関係」でもありません。別の制度だが、一部は材料になる。ここが正確なところです。


3色の意味

  • 赤(危険)……この建築物に立ち入ることは危険
  • 黄(要注意)……立ち入る場合は十分に注意する
  • 緑(調査済)……この建築物は使用可能

紙は建物の見やすい場所に貼られます。住んでいる人だけでなく、前を通る歩行者に知らせる意味もあります。

だから勝手にはがさないでください。自分が納得していても、通りかかった人には情報がなくなります。

調査は無料です。費用の請求は来ません。


誰が来るのか

来るのは応急危険度判定士です。民間の建築士などが講習を受け、都道府県が養成・登録しています。

そして多くがボランティアとして活動します。

この制度は阪神・淡路大震災をきっかけにできました。判定が必要な建物の量と被災地域の広さを考えると、行政職員だけでは対応できないと分かったからです。

登録者数は相当な規模です。愛知県だけで2025年3月末時点で9,657名が登録しています。


能登半島地震では、こう動きました

石川県の発表資料から、実際の数字です。

  • 実施日程……令和6年1月4日から1月21日(延べ18日間)
  • 実施市町……七尾市、輪島市、珠洲市など11市町
  • 実施件数……31,600件
  • 内訳……危険(赤)12,615件・39.9%/要注意(黄)8,790件・27.8%/調査済(緑)10,195件・32.3%
  • 従事……延べ958班・1,916人

市ごとの差も大きく、輪島市は赤が4,559件、珠洲市は赤が2,686件でした。

ここから読み取れることが2つあります。

1つは、赤は珍しくないということ。4割です。全壊が4割なら大変なことですが、そうではありません。

もう1つは、時間がかかるということ。地震は1月1日で、判定の開始は1月4日、完了は1月21日です。発災から3日後に始まり、18日かかっています。

つまり、紙が貼られるまでの数日間は、自分で判断するしかありません。


赤が貼られたら、どうするか

荷物を取りに入らない

いちばん多いのが、貴重品や着替えを取りに戻るケースです。余震で倒れる危険があると判定された建物に、数分でも入るのは危険です。

はがさない、書き換えない

紙は通行人への情報でもあります。応急措置をして状況が変わったなら、改めて相談してください。自分で判断して外すものではありません。

不服の申し立ては、できません

り災証明書の被害認定には再調査の仕組みがあります。けれど応急危険度判定には、結果に不服を申し立てる制度はありません。

二次災害を防ぐための応急的な判定だからです。納得できない場合は、建築士に依頼する被災度区分判定へ進むことになります。こちらは有料です。

在宅避難の判断材料にする

緑なら在宅避難を検討できます。黄なら注意しながら、赤なら家に戻らない。在宅避難のやり方と合わせて読んでください。


宅地には、さらに別の判定があります

建物ではなく土地を見る被災宅地危険度判定という制度もあります。

擁壁の倒壊、地盤の滑動崩落、液状化による亀裂などを調べて、通行時の安全確保や応急対策の必要性を知らせるものです。

こちらも被害認定とは別です。内閣府の指針には、「危険宅地」と判定された宅地に建てられている住家が、必ずしも「全壊」などと認定されるとは限らないと書かれています。

擁壁が倒れていても、住家に被害が及ばないことがあるからです。土地のリスクそのものは地震に弱い土地|液状化と盛土の見分け方にまとめました。


よくある質問

赤い紙が貼られたら、もう住めませんか

その建物に当面立ち入ることが危険、という意味です。恒久的に住めないという判定ではありません。直せるかどうかは、建築士による被災度区分判定で調べます。

判定を受けないと、り災証明書はもらえませんか

関係ありません。り災証明書は市町村に自分で申請します。応急危険度判定を受けていなくても申請できます。

緑だったのに、り災証明で半壊になりました

起こり得ます。目的も基準も違う制度だからです。応急危険度判定は余震での危険を、被害認定は被害の程度を見ています。

判定に費用はかかりますか

応急危険度判定は無料です。有料なのは、建築主が依頼する被災度区分判定のほうです。

紙が貼られる前に家に入っていいですか

能登半島地震でも開始は発災3日後でした。待っていても判定は間に合いません。傾き、大きなひび、基礎のずれ、ドアが閉まらないなどの異常があれば、自分の判断で近づかないでください。

賃貸の場合はどうなりますか

建物に貼られるので、借りている人も同じ扱いになります。赤なら立ち入れません。り災証明書は世帯ごとに申請できます。


今日1つだけやるなら、これ

家族に、3色の意味と「赤でも全壊ではない」ことを伝えてください。

この2つを知らないと、地震のあとに2つの間違いが起きます。赤い紙を見て絶望すること。そして、赤い紙の家に荷物を取りに入ることです。

もう1つ付け足すなら、紙が貼られたら写真を撮っておいてください。あとで状況が変わったときの記録になります。


今日のチェックリスト

  • 赤・黄・緑の3色の意味を覚えた
  • 赤でも「全壊」の認定とは別だと理解した
  • り災証明書は自分で申請するものだと知った
  • 赤が貼られたら荷物を取りに入らないと決めた
  • 紙を勝手にはがさないと決めた
  • 家族に3色の意味を伝えた
  • 判定は発災から数日かかると知った
  • 宅地にも別の判定があると知った

まとめ

玄関に貼られる赤・黄・緑の紙は、被災建築物応急危険度判定です。余震による二次災害を防ぐための応急的な判定で、無料です。

赤は「いま立ち入ると危険」。全壊という意味ではありません。内閣府の指針にも、危険と判定された住家が必ずしも全壊や半壊と認定されるとは限らないと書かれています。

能登半島地震では31,600件のうち約4割が赤でした。珍しいことではありません。

支援金や減免につながるのは、り災証明書の被害認定調査です。こちらは自分で申請します。直すための調査は、さらに別の被災度区分判定です。

覚えることは2つだけです。赤でも全壊ではない。赤なら荷物も取りに入らない。


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