避難所の入口には、たいていアルコールの消毒液が置いてあります。
ところが冬の避難所でいちばん問題になるノロウイルスに対して、アルコールは頼りになりません。 厚生労働省のノロウイルスQ&Aには、こう書かれています。
消毒用エタノールによる手指消毒は、石けんと流水を用いた手洗いの代用にはなりません。
国立感染症研究所が能登半島地震のときに出したリスク評価でも、避難所での対策として挙げられているのは塩素系消毒薬を用いた環境消毒でした。アルコールではありません。
結論:覚えるのは3つだけです
- 手は、石けんと流水で洗う(アルコールは代用にならない)
- 環境は、塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)で消毒する
- 吐いたり下したりしたら、すぐ申告する
この3つを知らないまま避難所に入ると、善意でやったことが広げる側に回ります。
避難所でノロはどのくらい危ないのか
国立感染症研究所は、2024年2月1日付けで能登半島地震のリスク評価を公表しています。感染症ごとに「地域・避難所で流行する可能性」「公衆衛生上の重要性」「リスク評価」を3段階で付けたものです。
感染性胃腸炎/急性下痢症(ノロウイルス・ロタウイルスなど)は、流行する可能性が3、リスク評価が3。いちばん上の区分です。
評価本文にはこう書かれています。
避難所等において感染性胃腸炎の発生が複数報告されている。断水の影響等により安全な水の利用が困難であり、衛生状態が維持できない避難所では、感染拡大のリスクは高い。
過去の災害でも起きています。2016年の熊本地震では、南阿蘇中学校体育館の避難所で急性感染性胃腸炎の患者が22名発生しました(4月23日)。
そしてノロは冬の病気です。避難が長引く季節と重なります。
なぜアルコールでは足りないのか
厚生労働省のQ&Aで、ノロウイルスを失活化させる方法として挙げられているのは次のものです。
- 次亜塩素酸ナトリウム(家庭用の塩素系漂白剤で代用できる)
- 亜塩素酸水
- 加熱
消毒用エタノールと逆性石けん(塩化ベンザルコニウム)は、一般的な感染症対策に使われることはあっても、ノロウイルスを完全に失活化する方法としては挙げられていません。
アルコールが無意味というわけではありません。ただしそれだけで済ませてはいけない、というのが正確なところです。手洗いができる場所があるなら、石けんと流水が先です。
塩素の濃度は2つ覚えてください
- 調理器具や吐いた物の処理……塩素濃度 約200ppm
- 廃棄物を入れるビニール袋……塩素濃度 約1,000ppm
袋のほうが5倍濃いのがポイントです。処理したものを入れる袋の中で、ウイルスが生き残らないようにするためです。
家庭用の塩素系漂白剤で代用できます。避難所に持っていく物として、小さいボトルを1本入れておく価値があります。
加熱で落とす場合
- 二枚貝など……中心部が85〜90度で90秒以上
- まな板、包丁、食器、ふきんなど……熱湯(85度以上)で1分以上
炊き出しをする立場になったときに効いてくる数字です。
吐いた物の処理には、手順があります
厚生労働省が示している手順です。避難所では自分がやることになる場面があります。
- 使い捨てのガウン(エプロン)、マスク、手袋を着用する
- ウイルスを飛散させないよう、ペーパータオル等で静かに拭き取る(市販の凝固剤も使える)
- 次亜塩素酸ナトリウムまたは亜塩素酸水で床を拭いた後、水拭きをする
- おむつや使ったペーパータオル等は、密閉したビニール袋に入れて廃棄する
- 速やかに処理し、十分に換気する
いちばん大事なのは、放置しないことです
厚生労働省は理由をはっきり書いています。乾燥させるとウイルスが空気中に漂うからです。
「あとで誰かが片付けるだろう」が最悪の対応になります。体育館のような広い空間では、乾いたウイルスが舞って離れた場所の人に届きます。
また、ごしごし擦るのもだめです。飛び散ります。静かに拭き取って、密閉して捨てる。この順番です。
治ってからが長いのが、この病気です
症状そのものは短く終わります。
- 潜伏期間……24〜48時間
- 主な症状……吐き気、嘔吐、下痢、腹痛。発熱は軽度
- 症状の期間……通常1〜2日で治り、後遺症もない
問題はそのあとです。ウイルスの排出は通常約1週間、長い場合は約1か月続きます。
厚生労働省は、症状が改善した後もしばらくは食品を直接取り扱う作業を避けるべきとしています。
避難所に置き換えると、治ったからといって、すぐ炊き出しに入ってはいけないということです。本人は元気なので、ここが抜けます。
さらに、感染しても発症しない場合や、軽い風邪のような症状で済む場合もあります。つまり誰が持っているか分かりません。 だから全員が手を洗う、という話になります。
避難所に持っていくなら、この5つ
- 家庭用の塩素系漂白剤(小さいボトルで十分)
- 使い捨ての手袋(厚手のポリ手袋)
- マスク
- ペーパータオル(キッチンペーパーでよい)
- 密閉できるビニール袋(厚手のもの)
エプロンは大きめのポリ袋で代用できます。首と腕を通す穴を開ければ使えます。
手を洗う水が足りない場面もあります。給水で運べる量には限りがあるので、給水所に行くとき何を持っていく?も合わせて見てください。
よくある質問
アルコール消毒は意味がないのですか
無意味ではありませんが、ノロウイルスを完全に失活化する方法としては挙げられていません。厚生労働省は「石けんと流水を用いた手洗いの代用にはなりません」としています。手洗いができるなら手洗いが先です。
水が出ないときはどうすればいいですか
手洗い用の水を確保することが先決です。そのうえで、環境の消毒は塩素系で行います。体の清潔を保つ方法は断水でお風呂に入れないときにまとめました。
漂白剤をどのくらい薄めればいいですか
製品によって原液の濃度が違うので、ボトルの表示を見てください。目安は環境の消毒が約200ppm、廃棄袋が約1,000ppmです。避難所では運営の方に確認するのが確実です。
症状が出たら隔離されますか
感染研のリスク評価では「可能な限りの患者の隔離」が望ましいとされています。物品や場所が足りないこともありますが、まず申告しないと何も始まりません。
子どもが吐いたらどうすればいいですか
手順は同じです。使い捨ての手袋とマスクをして、静かに拭き取り、塩素系で消毒して水拭き、密閉して廃棄、換気。慌てて雑巾で擦らないでください。
トイレはどう気をつけますか
感染研は、手指衛生に加えてトイレの衛生状態の保持を挙げています。携帯トイレの備えは携帯トイレは何回分必要?にまとめています。
今日1つだけやるなら、これ
防災バッグに、家庭用の塩素系漂白剤を1本入れてください。
避難所に置いてあるとは限りません。そして、いざ必要になる場面は夜中の体育館です。買いに行けません。
使い捨ての手袋とポリ袋も一緒に入れておけば、吐いた物の処理ができる最低限がそろいます。
今日のチェックリスト
- アルコールはノロの代用にならないと知った
- 手は石けんと流水で洗うと決めた
- 塩素系漂白剤を防災バッグに入れた
- 使い捨て手袋とマスクを入れた
- 密閉できるビニール袋を入れた
- 吐いた物は擦らず静かに拭き取ると覚えた
- 処理したあとは換気すると覚えた
- 治っても1週間は炊き出しに入らないと決めた
まとめ
避難所の冬で問題になるのがノロウイルスです。国立感染症研究所の能登半島地震リスク評価では、感染性胃腸炎は流行する可能性もリスク評価も最上位の3でした。
アルコールでは足りません。厚生労働省が失活化の方法として挙げているのは、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸水、加熱です。手は石けんと流水で洗います。
濃度は2つ。環境と吐いた物の処理が約200ppm、廃棄袋が約1,000ppm。家庭用の塩素系漂白剤で代用できます。
吐いた物は静かに拭き取り、消毒して水拭きし、密閉して捨て、換気します。乾燥させるとウイルスが空気中に漂うので、放置がいちばん危険です。
そして症状が治っても、ウイルスの排出は通常約1週間、長ければ約1か月続きます。元気になっても、しばらくは食べ物を扱う作業に入らないでください。
