防災士が解説|服に火がついたら走らないでください|着衣着火で毎年約100人

服に火がついたとき、人は走ります。助けを呼びに行こうとするからです。

これがいちばんやってはいけないことです。 走ると風が起きて、火の勢いが増します。

着衣着火で、毎年約100人の方が亡くなっています。 そして消費者庁によると、そのうち8割以上が65歳以上です。

火事のとき、タオルは濡らさなくていいでは、住宅火災の死者1,030人のうち着衣着火が45人(4.4%)という数字だけを出しました。この記事は、その中身です。


結論:順番は「脱ぐ・叩く・水」、それでも無理なら転がる

消費者庁が示している対処法です。順番があります。

  • 素早く脱げるなら、脱ぐ
  • 脱げないなら、着火している部分を叩く、または水をかける
  • 水がない場合は、走り回らないでその場に転がり、燃えているところを床や地面に押し付ける
  • 火が消えたら、すぐに119番。やけどを負っていたら、その旨も必ず伝える

水は近くにあるもので構いません。消費者庁は、水道水、流しの洗い桶の水、浴槽の水、花瓶の水、飲み物を例に挙げています。

転がる理由は2つあります。走ると風が起きて火の勢いが増すこと。そして転がることで、火が顔まで上るのを防げることです。

東京消防庁の表現は「水をかける、脱ぐ、たたく などして早急に消火し、119番通報」です。言い方は違いますが、やることは同じです。


どのくらい起きているのか

消費者庁が総務省消防庁の火災統計から集計した数字です。

  • 平成27年から令和2年までの6年間で、着衣着火により572人が死亡
  • そのうち65歳以上が493人(8割以上)

亡くならなくても、軽くは済みません。消費者庁と国民生活センターの医療機関ネットワークに寄せられた86件の内訳です。

  • 入院が必要……50件(58%)
  • 通院が必要……27件(32%)
  • 死亡……4件(5%)

6割近くが入院です。 やけどは面積と深さで決まるので、服が燃えると範囲が一気に広がります。


約8割は、こんろです

東京消防庁の資料(令和8年1月発行)から、管内の住宅内で起きた着衣着火の数字です。自損は除いています。

  • 令和6年……死者2人、傷者48人
  • 死傷者が発生した着衣着火件数の約8割がこんろ
  • 令和2年から令和6年の5年間で、こんろによる死傷者は186人(死者8人・傷者178人)

消費者庁の資料でも、東京消防庁管内の平成30年から令和2年の住宅内着衣着火はこんろが約8割、続いてろうそくが約1割でした。医療機関ネットワークの屋内の事例では、こんろが約6割、仏壇のろうそくが2割以上を占めています。

女性が男性の3倍以上です

東京消防庁のこんろによる着衣着火の死傷者を見ると、傾向がはっきり出ています。

  • 女性が男性の3倍以上
  • 年齢は80歳代が最も多く、90代を除き年齢が上がるごとに多くなる
  • 時間帯は7時台、11時台から12時台、18時台から19時台(調理の時間帯)
  • 季節に関係なく発生している

受傷した部位では、手・腕が58人で最多、次いで背部21人、腹部12人、顔・頸部9人、胸部6人でした(その他の部位80人を除く)。袖口から燃えるので、手と腕に集中します。


実際に起きていること

東京消防庁が挙げている、過去5年間のこんろによる事例です。

  • 90歳代女性……台所で調理中、エプロンの袖がこんろの火に接触して着火(中等症)
  • 20歳代女性……調理中、ガステーブルの奥に置いてある調味料を取ろうとして割烹着の袖が炎に触れて着火(軽症)
  • 60歳代女性……鍋からはみ出した火が着衣のすそに着火し、上半身にかけて燃え広がる(重症)
  • 70歳代女性……こんろに火をつけ、後ろを向いたところ着衣に着火(中等症)
  • 30歳代女性……哺乳瓶を煮沸消毒中、こんろ上部のフックに調理器具をかけようとして着火(軽症)

注目してほしいのは年齢です。90歳代も70歳代もいますが、20歳代と30歳代も入っています。 高齢者だけの話ではありません。

もう1件、重要な事例があります。20歳代女性の着衣に火が燃え移り、同居の20歳代男性が初期消火をしたところ、男性も受傷しました(男女ともに中等症)。助ける側もやけどを負います。

そして東京消防庁は、高齢者について「素早く消火ができず、重症化してしまう場合が多くあります」と書いています。


約1秒で燃え広がる「表面フラッシュ」

服の種類によっては、火がついた瞬間に全体へ走ります。これを表面フラッシュといいます。

消費者庁の定義です。衣類の生地の表面に細かい繊維が毛羽立っていると、わずかな炎が接触しただけで毛羽部分に火が着き、一瞬のうちに表面に火が走る現象。

神戸市が公開している実験動画では、着火してから約1秒で服全体に燃え広がる様子が記録されています。

起きやすい素材

  • パイル・タオル地
  • 表面を起毛した生地
  • 綿やレーヨンなど植物繊維を使用した素材
  • 着古して表面が毛羽立っている衣服

冬の部屋着が、ほぼそのまま当てはまります。起毛したルームウェア、タオル地のガウン、着込んだ綿のトレーナー。これらを着たまま調理するのが、いちばん危ない組み合わせです。

消費者庁は、表面フラッシュが起きると炎の速度が大きいためパニックになるおそれがあり危険だ、としています。だから順番を先に覚えておく必要があります。


火に触れなくても着きます

消費者庁は、火に直接あたっていなくても、火から放射される熱により衣服に火が着くことがあると注意しています。

さらに、引火しやすい液体が付いた服は、それだけで危険です。

  • 消毒用アルコール……手指消毒で衣服に染み込んだ直後に火のそばに近づくと着火する危険
  • 暖房器具へ給油する際に燃料を衣服にこぼし、そのまま火をつける
  • 高濃度アルコール飲料を衣服にこぼし、その直後にたばこの火をつける
  • 作業着に付着した油汚れをそのままにして、火花が飛ぶ作業をする

灯油の扱いは去年の灯油は使えませんにまとめています。


防炎品は「燃えない」ではありません

消費者庁の説明が正確です。「防炎」は「不燃」とは異なり、あくまでも「燃えにくい」という性能を示す用語です。小さな火源に接しても容易に燃え上がらず、着火しても自己消火性があり、際限なく燃え広がらないことを意味します。

東京消防庁は、防炎品を「火がついても容易に着火せず、着火しても延焼拡大を停止する自己消火性を備えた素材で作られた品物」と定義し、こう書いています。同じタイミングで着火しても、防炎品のエプロンは燃え広がらず、受傷リスクを大幅に軽減することができる。

消費者庁も、防炎製品のエプロンやアームカバーを使うことは被害の拡大を防ぐために有効で、特に高齢者は着用を検討しましょうとしています。

ラベルは2種類あります。防炎物品ラベルと防炎製品ラベルです。買うときはこのラベルを見てください。


やけどの手当てで、やってはいけないこと

消火したあとの手順です。ここも間違えやすいところです。

  • 消火した後も水で冷やし続ける
  • 無理に衣服は脱がず、衣服の上から冷やす
  • 刺激が強い場合は、容器に貯めた水で冷やす。水道水やシャワーを直接当てない
  • 自己判断で対処せず、医療機関を受診する

そして消費者庁がはっきり禁じていることがあります。事故事例の中に、調味料等をやけどした部位に付けていたものがありました。これについて「かえって症状を悪化させたり、治療の妨げになる可能性がありますので、絶対にやめてください」と書かれています。

天ぷら油にマヨネーズをかけるのが危険なのと同じ構図です。台所にあるものを使いたくなりますが、使うのは水だけです。


屋外でも起きています

平成27年から令和元年までの着衣着火死亡者のうち、たき火中が92人(19%)でした。屋内だけの問題ではありません。

医療機関に寄せられた屋外の原因は、たき火中、木材やごみを焼却中、野焼き中などです。

消費者庁は、風のある日は着火するとすぐ燃え広がり大変危険なので、屋外で火を扱うのは控えるようにとしています。花火のときも、火が袖に触れないよう十分に距離をとってください。


よくある質問

すぐ脱ぐのと転がるのは、どちらが先ですか

素早く脱げるなら脱ぐのが先です。脱げないときに叩く・水をかける、水がないときに転がる、という順番です。迷ったら「走らない」とだけ覚えてください。

走ってはいけないのはなぜですか

走ると風が起きて火の勢いが増すからです。消費者庁は「かえって危険」と書いています。助けを呼ぶのは、消したあとです。

高齢者だけの問題ですか

死者の8割以上は65歳以上ですが、東京消防庁の事例には20歳代と30歳代も入っています。こんろを使う人全員の話です。

冬だけ気をつければいいですか

東京消防庁は、こんろによる着衣着火は季節に関係なく発生しているとしています。ただし表面フラッシュを起こしやすい起毛の部屋着は冬に増えます。

アームカバーは普通のものではだめですか

防炎品かどうかが分かれ目です。防炎物品ラベルか防炎製品ラベルが付いているものを選んでください。

人が燃えているのを見たらどうすればいいですか

まず走らせないでください。そのうえで水をかける、叩くなどで消します。ただし初期消火をした人が受傷した事例もあるので、自分の服に移らないよう注意が必要です。


今日1つだけやるなら、これ

台所に立つときの服を、一度見てください。

袖口が広がっていないか。すそが垂れていないか。起毛した部屋着やタオル地のガウンのまま調理していないか。

マフラーやストールは外す。こんろの奥に調味料を置かない。鍋底から炎がはみ出さない火力にする。この3つだけでも、事例のかなりの部分が消えます。

そのうえで、よく火を使う方には防炎のエプロンかアームカバーを1つ。特に高齢の家族がいる家では、これが効きます。


今日のチェックリスト

  • 服に火がついたら走らないと覚えた
  • 脱ぐ・叩く・水、水がなければ転がる、の順番を覚えた
  • 消えたら119番すると覚えた
  • やけどに調味料を付けないと覚えた
  • 調理中はマフラーやストールを外すと決めた
  • こんろの奥に物を置かないようにした
  • 鍋底から炎がはみ出さない火力にした
  • 起毛した部屋着のまま調理しないと決めた
  • 防炎のエプロンかアームカバーを検討した

まとめ

着衣着火で毎年約100人が亡くなり、8割以上が65歳以上です。平成27年から令和2年の6年間では572人が亡くなっています。

約8割はこんろです。東京消防庁の集計では女性が男性の3倍以上、80歳代が最多で、季節に関係なく起きています。受傷部位は手・腕が最多です。

起毛した生地やタオル地では表面フラッシュが起き、約1秒で服全体に燃え広がります。だから手順を先に覚えておく必要があります。

消火の順番は、脱ぐ、叩く・水をかける、水がなければ走らずその場で転がる。消えたら119番です。

やけどは水で冷やし続けます。衣服は無理に脱がず、上から冷やします。調味料は絶対に付けないでください。

そして防炎は「燃えない」ではなく「燃えにくい」です。それでも、同じ条件で着火したときに燃え広がらないという差が出ます。


次に読むべき記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA