防災士が解説|火事のとき、タオルは濡らさなくていい|死者の45%は逃げ遅れです

このブログの火事の記事は、これまで全部「火を出さない」話でした。こんろ、ストーブ、たばこ、コンセント、こたつ。

ですが令和6年に住宅火災で亡くなった1,030人のうち、465人は「逃げ遅れ」です。全体の45.1%で、どの原因より多い。出さない話と同じくらい、出たあとの話が要ります。

そして避難といえば「濡れタオルで口を覆う」が定説ですが、消防庁の研究機関が実験した結果、濡らす意味は確認されていません。


結論:死者の45%は逃げ遅れです

消防庁がまとめた令和6年中の住宅火災の死者(放火自殺者等を除く)は1,030人。死に至った経過で分けると、こうなります。

  • 逃げ遅れ 465人(45.1%)
  • 着衣着火 45人(4.4%)
  • 出火後再進入 16人(1.6%)
  • その他 504人(48.9%/うち不明・調査中が490人)

逃げ遅れは前年から50人増え、割合も40.6%から45.1%に上がっています。原因がはっきりしているものの中では、突出して多い項目です。

消防庁は逃げ遅れを「発見が遅れ、気づいた時は、火煙が回り、すでに逃げ道がなかったものと思われるもの(全く気づかなかった場合を含む)」と定義しています。


逃げ遅れの中身を見てください

465人の内訳です。カッコ内は、そのうち65歳以上の人数です。

  • 病気・身体不自由 98人(88人)
  • 熟睡 90人(63人)
  • 延焼拡大が早く 62人(49人)
  • 消火しようとして 39人(31人)
  • 泥酔 11人(3人)
  • 持出品・服装に気をとられ 5人(4人)
  • 狼狽して 4人(3人)
  • 人を救助しようとしていて 4人(2人)
  • その他 152人(113人)

465人のうち356人、約77%が65歳以上でした。

上位2つは「病気・身体不自由」と「熟睡」です。どちらも、気づけなかった人です。

「消火しようとして」39人

ここは行動で変えられる部分です。39人が、消そうとして逃げ遅れています。

消火器には適用できる火災の種類と限界があります。何で消せて何で消せないかは消火器の代わりにスプレー・投てき型でいい?にまとめました。

天井に火が届いたら消火をやめて逃げる、というのが一般的な目安として言われています。ただ、その場で判断するのは難しいので、消すか逃げるかを迷う時点で逃げるほうが数字には合っています。

戻らない

「持出品・服装に気をとられ」5人、そして逃げ遅れとは別区分の「出火後再進入」が16人います。一度外に出てから戻った人たちです。

合わせて21人が、物を取りに行く判断で亡くなっています。


深夜の火事は、死ぬ確率が4.5倍になります

時間帯別の数字が、はっきりしています。

消防庁は「死者発生率」として、住宅火災100件あたりの死者数を出しています。

  • 2時〜4時 21.8人
  • 4時〜6時 19.9人
  • 0時〜2時 18.0人
  • 22時〜24時 13.0人
  • 6時〜8時 11.2人
  • 14時〜16時 4.8人(最少)
  • 全体の平均 9.2人

2時〜4時は21.8人で、14時〜16時の4.8人の約4.5倍です。

0時から6時の深夜に320人(31.1%)が亡くなっていますが、消防庁はこの時間帯の住宅火災の件数自体は少ないと書いています。件数が少ないのに死者が多い。つまり同じ火事でも、深夜に起きると死ぬ確率が上がるということです。

理由は内訳にあります。熟睡90人です。


煙は上に毎秒3〜5メートル上がります

東京消防庁が示している煙の速さです。

  • 水平方向 毎秒0.5〜1メートル(大人が普段歩く速さより少し速い程度)
  • 垂直方向 毎秒3〜5メートル(大人が歩く速さの3〜4倍)

横はゆっくりで、縦が速い。これが階段の怖さです。

そして煙は天井側から下にたまっていくので、床に近い低い場所は比較的見通しがきく、とされています。だから低い姿勢で煙の下を進む。階段でも同じ姿勢です。


タオルは濡らさなくていい

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

消防庁の消防研究センターが、平成26年にタオルやハンカチの除煙効果を実験しています。過去の研究と合わせた結論はこうです。

過去の研究から分かっていること

神忠久氏の「ぬれタオルの除煙効果について」(1981年)から得られた知見として、3点が挙げられています。

  • 有毒ガス(一酸化炭素)の除去効果は、あまり期待できない
  • 煙粒子、刺激性のガスの除去については一定の効果が認められる
  • タオルを濡らすことによる効果(煙粒子、刺激性ガスの低減)はあまりなく、逆に繊維が収縮し除煙効果が下がることもあり、また息苦しくなりやすい

3つめです。濡らすと効果が上がらないどころか、下がることがあると書かれています。

そしてこの研究からは、こう提言されています。

「火災時の避難に際しては、タオルを濡らすのに手間取り貴重な避難時間を無駄にせず、どんな物でもいいから口と鼻にあて、すぐ避難行動を開始する」

消防研究センターの追加実験

身近なハンカチとおしぼり(タオル地)でも確認実験が行われ、こう整理されています。

  • 有毒ガス(一酸化炭素)の除去効果は小さく、安全なレベルまで除去できない
  • 煙粒子の除去については一定の効果が認められる
  • ハンカチは、おしぼり(タオル地)に比べ除煙効果が低く息苦しくなりやすい
  • いずれも濡らすと除煙効果は低下する
  • 濡れたおしぼり(タオル地)では、蒸発潜熱により温度を下げることが期待できる

正確に書くと、こうなります

「濡らすと完全に無意味」ではありません。最後の1行のとおり、濡れたタオル地には吸う空気の温度を下げる効果が期待できます。

ですが、煙を取るために濡らす理由はありません。そして濡らすのに使った時間は、そのまま避難の遅れになります。

さらに、一酸化炭素は布では取れません。消防研究センター自身が、タオルやハンカチの使用は「とっさの場合の緊急措置」と位置づけています。布は時間を稼ぐ道具であって、煙の中にいていい道具ではありません。


結局いちばん効くのは、早く気づくことです

消防研究センターは、実験の結論をこう締めくくっています。

「あくまでも、自動火災報知設備や住宅用火災警報器で火災を早期に覚知し、避難を開始することが重要である」

逃げ遅れの内訳で2番目に多いのが熟睡90人、深夜の死者発生率が昼間の4.5倍。どちらも「気づけなかった」という一点に戻ります。

住宅用火災警報器の疑問は住宅用火災警報器のよくある疑問にまとめました。寝室に付けるのが義務なのは、まさにこの数字が理由です。


よくある質問

濡れタオルは意味がないのですか

煙粒子を取る目的では、濡らす意味は確認されていません。むしろ繊維が縮んで効果が下がり、息苦しくなるとされています。ただし濡れたタオル地には吸う空気の温度を下げる効果が期待できます。「濡らしてはいけない」ではなく、「濡らすために時間を使うな」が正確です。

ハンカチとタオル、どちらがいいですか

消防研究センターは、ハンカチはおしぼり(タオル地)に比べて除煙効果が低く、息苦しくなりやすいとしています。厚みのあるタオル地のほうが有利です。ただし手元にあるものを使うのが前提です。

口を覆えば煙の中を進めますか

進めません。一酸化炭素は布では除去できず、酸素不足にも対応できません。公的資料でも「とっさの場合の緊急措置」とされています。

煙の中を走ってもいいですか

走る・走らないについての記載は、確認した公的資料には見当たりませんでした。書かれているのは、低い姿勢で煙の下を進むこと、階段でも同じ姿勢を取ることです。

2階にいたらどうすればいいですか

煙は垂直方向に毎秒3〜5メートルで上がるので、階段は早く使えなくなります。ただし具体的にどう降りるかについては、住宅の構造によって選べる手段が違い、確認した公的資料に一律の手順はありませんでした。ここは断定を避けます。普段から、寝室から外に出る経路を2つ考えておいてください。

消火と避難、どちらを優先しますか

「消火しようとして」亡くなった人が39人います。消火器にも適用できる火災の種類に限界があります。迷った時点で逃げてください。


今日1つだけやるなら、これ

寝室から玄関までを、しゃがんだ姿勢で一度歩いてみてください。

煙は天井からたまるので、実際の避難はこの姿勢になります。やってみると、ふだん見えていない物の配置が邪魔になることが分かります。廊下に置いた箱、階段の途中の荷物、開けっぱなしの扉。

所要時間は1分です。家族がいるなら一緒にやると、それがそのまま訓練になります。


今日のチェックリスト

  • 寝室に住宅用火災警報器があるか見た
  • 寝室から外に出る経路を2つ考えた
  • しゃがんだ姿勢で経路を歩いてみた
  • 廊下や階段に物を置いていないか確認した
  • タオルは濡らさずすぐ逃げると決めた
  • 消すか迷ったら逃げると家族で決めた
  • 一度外に出たら戻らないと決めた

まとめ

令和6年の住宅火災の死者1,030人のうち、465人(45.1%)が逃げ遅れでした。内訳の上位は病気・身体不自由98人と熟睡90人で、どちらも気づけなかった人です。77%が65歳以上でした。

深夜2時〜4時の死者発生率は21.8人で、昼間の4.5倍。件数が少ないのに死者が多いのは、寝ているからです。

煙は横に毎秒0.5〜1メートル、縦に3〜5メートル。低い姿勢で、煙の下を進みます。

そしてタオルは濡らさなくていい。濡らしても煙は取れず、息苦しくなり、何より時間を失います。どんな物でもいいから口と鼻にあてて、すぐ動く。これが消防研究センターの提言です。

消そうとして39人、物を取りに戻って21人が亡くなっています。迷ったら逃げる、出たら戻らない。この2つだけ決めておいてください。


次に読むべき記事

「事業所の場合は、防火管理者の選任義務があります」
→ 防火管理者は何人から必要か|10人・30人・50人の3つの線引き

「自分が出す火だけが原因ではありません」
→ 放火は「疑い」を足すと最多です|3,904件で全火災の10.5%

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA