地震のニュースで「震度3」と聞いたら、たいしたことはないと思うはずです。
ところが2011年の東日本大震災のとき、地表の震度が3だった大阪市住之江区の55階建てビルでは、エレベーター32基すべてが停止し、内装材や防火戸などが合計360か所損傷しました。 震源からは700キロ以上離れています。
これが長周期地震動です。そして2023年2月1日から、緊急地震速報の発表基準に長周期地震動階級が追加されました。
結論:覚えるのは「階級3」の1つだけです
長周期地震動階級は1から4まであります。このうち階級3以上が予想されると、緊急地震速報(警報)が出ます。 震度5弱以上と同じ扱いです。
- 階級3以上……緊急地震速報(警報)
- 階級4……特別警報
- 階級1以上……緊急地震速報(予報)
つまり、震度の予想が小さくても、高層ビルが大きく揺れると予想されれば警報が鳴るようになった、ということです。
起きる回数は、気象庁の約23年分の集計でこうなっています。
- 階級1以上……1か月に1〜2回(23年で367回)
- 階級3以上……1年に1〜2回(23年で33回)
- 階級4……1年に1回あるかどうか(23年で17回)
階級3以上は年に1〜2回です。めったに起きませんが、起きたときに高層階にいると行動が止まります。
階級ごとに何が起きるか
気象庁の長周期地震動階級関連解説表です。対象は固有周期1.5秒程度から8秒程度の一般的な高層ビル、おおむね14〜15階建て以上の建物の高層階です。
階級1(やや大きな揺れ)
室内にいたほとんどの人が揺れを感じ、驚く人もいます。ブラインドなど吊り下げものが大きく揺れます。
階級2(大きな揺れ)
室内で大きな揺れを感じ、物につかまりたいと感じます。物につかまらないと歩くことが難しいなど、行動に支障を感じます。キャスター付き什器がわずかに動きます。 棚の食器類や書棚の本が落ちることがあります。
階級3(非常に大きな揺れ)
立っていることが困難になります。キャスター付き什器が大きく動きます。 固定していない家具が移動することがあり、不安定なものは倒れることがあります。間仕切壁などにひび割れ・亀裂が入ることがあります。
階級4(極めて大きな揺れ)
立っていることができず、はわないと動くことができません。揺れにほんろうされます。キャスター付き什器が大きく動き、転倒するものがあります。 固定していない家具の大半が移動し、倒れるものもあります。間仕切壁などのひび割れ・亀裂が多くなります。
4つ並べて分かること
どの階級にもキャスター付き什器が出てきます。 震度の解説表は「倒れる」が中心ですが、長周期地震動の解説表は「動く」が中心です。
高層階では、家具は倒れる前にまず走ります。コピー機、キャビネット、ワゴン、オフィスチェア、病院のベッド。これらが階級2の段階からもう動き始めます。
なお解説表は、示された現象がすべて起きるという意味ではありません。同じ階級でも建物の状態や揺れの続いた時間で被害は変わります。
なぜ高層ビルだけが揺れるのか
振り子で考えると分かりやすくなります。振り子が一往復する時間を固有周期といい、これは振り子の長さで決まります。
一般の住宅は短い振り子、高層ビルは長い振り子です。そして揺れの周期と建物の固有周期が近いと、共振して大きく揺れます。
気象庁の資料には、実在する建物の固有周期が挙げられています。
- 霞ヶ関ビル(1968年竣工・147メートル)……約3秒
- 横浜ランドマークタワー(1999年竣工・296メートル)……約6秒
- あべのハルカス(2014年竣工・300メートル)……約6秒
長周期地震動は周期1.5秒程度から8秒程度の揺れです。高層ビルの固有周期がちょうどこの範囲に入ります。
高層ビルでなくても、近年普及している免震建物は固有周期が長いため、同じく長周期地震動の影響を受けます。 免震は短い周期の揺れを減らす仕組みなので、長い周期の揺れとは相性が別だということです。
震源が遠くても来ます
長周期地震動には3つの特徴があると気象庁は整理しています。
- 規模の大きな地震で発生する(マグニチュードが大きいほど強く出る)
- 遠くまで伝わりやすい(周期が長いほど減衰しにくい)
- 三大都市圏など、堆積層の厚い平野で増幅される
台風のうねりが遠くまで届くのと同じ理屈です。だから震源から数百キロ離れた都市で、地面はあまり揺れていないのに高層ビルだけが大きく揺れます。
実際に起きたこと
- 2003年 十勝沖地震(M8.0)……震央から250キロ離れた苫小牧の石油タンクで、液体が揺れるスロッシング現象により浮き屋根が沈没。2日後に静電気で出火
- 2004年 新潟県中越地震(M6.8)……東京(震度3)の六本木ヒルズでエレベーターのケーブルが損傷
- 2011年 東北地方太平洋沖地震(M9.0)……大阪市住之江区の55階建てビル(地表の震度3)でエレベーター全32基が停止、うち4基でロープが絡まる。内装材・防火戸等の損傷が合計360か所
気象庁の資料は、この構図の怖さをはっきり書いています。管理センターが置かれる低層階では、発表された震度程度の揺れしか体感しない。だから高層階が非常に大きく揺れていることを想像しにくい、と。
震度4でも階級3になることがあります
2011年の東日本大震災では、震度4以下なのに長周期地震動階級3以上だった地域が4つありました(胆振地方中東部、十勝地方中部、青森県津軽北部、新潟県下越)。
2022年3月16日の福島県沖の地震でも、震度4で階級3を観測した地点が1点ありました。同じ震度5弱でも階級は1から3まで幅があります。震度と階級は相関はありますが、換算はできません。
こういう「震度4以下で階級3以上の地域がある地震」は、23年で6事例=数年に1回です。
ただし過度に怖がる必要もありません。気象庁の観測点では、階級3以上を観測した地点で震度3以下だった事例は過去にありません。 高層ビルで大きな被害が出る揺れのとき、低層階がまったく揺れないということはない、ということです。
緊急地震速報は「強い揺れ」としか言いません
2023年2月1日から基準は次のようになりました。
- 警報……最大震度5弱以上または長周期地震動階級3以上が予想されたとき
- 特別警報……震度6弱以上または階級4が予想されたとき
- 予報……最大震度3以上、マグニチュード3.5以上、または階級1以上が予想されたとき
ここで注意したいことがあります。緊急地震速報は、長周期地震動階級の数字を読み上げません。
予測には誤差があり、気象庁の検証でも実測と1階級以内のずれで収まる割合が9割程度です。そのため具体的な階級は出さず、「強い揺れ」と表現します。
そして気象庁は、長周期でも短周期でもとるべき行動は同じだと明記しています。安全な場所で揺れに備える。これだけです。
なお情報が重なった場合の優先度は、警報、震度情報、長周期地震動の観測情報、の順とされています。
高層階にいる人がやること
キャスターを止める
解説表に4回出てくるのがキャスター付き什器です。ここが長周期地震動の対策の中心になります。
- コピー機、キャビネット、ワゴン、サーバーラックはロックをかける
- ロックだけでは動くことがあるので、ストッパーや固定金具を足す
- 使っていない時間が長い物ほど、ロックされているか見落とされやすい
揺れている間は動かない
長周期地震動の揺れは数分続くことがあります。船に乗っているような揺れです。立って歩こうとすると、階級3では立つこと自体が困難になります。
揺れが収まるまで、低い姿勢で物につかまって待ってください。室内の備え方は家具の転倒対策と室内の備えにまとめています。
エレベーターは使わない
過去の被害例は、ほぼすべてエレベーターが止まっています。乗っている最中に緊急地震速報が鳴ったら、全部の階のボタンを押して、最初に止まった階で降りてください。閉じ込められた場合はエレベーターで地震が起きたらを見てください。
職場なら、周知の手順を決めておく
気象庁が想定している活用例が、防災センターから高層階へ知らせる運用です。「震源が遠いからうちは揺れない」と判断してしまうのが、いちばん危ない誤解だからです。会社での動き方は会社で地震が起きたらにまとめています。
よくある質問
震度が小さければ安心ですか
高層階では安心できません。震度は地面の揺れの強さで、高層階の揺れは震度では表せません。だから気象庁は長周期地震動階級という別の指標を作りました。
マンションの何階から関係ありますか
解説表が対象にしているのは、おおむね14〜15階建て以上の建物の高層階です。ただし建物の固有周期は高さや構造で変わるので、階数だけで線は引けません。停電や断水を含めた備えはマンションの防災にまとめています。
免震マンションなら安全ですか
免震は短い周期の揺れには有効ですが、固有周期が長いため長周期地震動の影響は受けると気象庁は明記しています。免震だからキャスターを止めなくていい、とはなりません。
緊急地震速報が鳴ったのに、ほとんど揺れませんでした
長周期地震動階級1以上の予報でも鳴ります。また予測には1階級程度の誤差があります。鳴って揺れなかったことを責める必要はありません。次も同じように身を守ってください。
長周期地震動の観測情報はどこで見られますか
気象庁のホームページで、地震発生からおおむね10分後に長周期地震動階級1以上を観測した地点の情報が出ます。震度の情報とは別のページです。速報を受け取る側の設定はスマホの防災設定5つで確認できます。
タンクの火災の話が出てきたのはなぜですか
スロッシングといって、タンクの中の液体が長い周期で大きく揺れる現象です。2003年の十勝沖地震では、これで浮き屋根が沈み、2日後に静電気で出火しました。長周期地震動は建物だけの問題ではない、という例です。
今日1つだけやるなら、これ
職場や自宅の高層階にある、キャスター付きの物を1つ見つけてロックしてください。
コピー機でも、ワゴンでも、キャビネットでもかまいません。階級2の「わずかに動く」はもう始まっています。倒れる前に走る、というのが高層階の揺れ方です。
そのうえで、背の高い家具が固定されているかを確認してください。固定具の選び方は家具の固定は何がいい?にまとめました。
今日のチェックリスト
- 自分がいる建物がおおむね14階建て以上かどうかを把握した
- キャスター付きの什器・家電のロックを確認した
- ロックに加えてストッパーを付けた
- 背の高い家具を固定した
- 揺れている間は動かないと決めた
- エレベーターに乗っているときの対応(全階のボタン)を覚えた
- 職場の場合、高層階への周知手順があるか確認した
- 緊急地震速報が鳴る設定になっているか確認した
まとめ
長周期地震動は、規模の大きな地震で発生し、遠くまで伝わり、堆積層の厚い平野で増幅されます。高層ビルや免震建物は固有周期が長いため、共振して大きく揺れます。
階級は1から4まで。階級3で立っていることが困難になり、階級4ではうことしかできません。どの階級でもキャスター付き什器が動きます。
2023年2月1日から、階級3以上が予想されると緊急地震速報(警報)が出ます。ただし階級の数字は読み上げず「強い揺れ」と伝えます。とるべき行動は震度のときと同じです。
震度4以下で階級3以上になる地域がある地震は、数年に1回あります。震度の数字だけで高層階の揺れは判断できません。
やることは地味です。キャスターを止めて、背の高い家具を固定して、揺れている間は動かない。それだけです。

