防災士が解説|津波から逃げる|「遠く」より「高く」です

津波から逃げる方向を示した図。遠くより高く、水平では人の足で勝てません

地震の揺れそのものを生き延びても、そのあとに来るもので命を落とすことがあります。津波です。

東日本大震災では、亡くなった方の多くが津波によるものでした。揺れで建物が倒れたのではなく、逃げる時間と方向を間違えたことが結果を分けています。

津波から逃げるときの原則は、ひとつだけです。

「遠く」ではなく「高く」

津波と聞くと、海から離れる方向に走るイメージがあると思います。ですが、それでは間に合いません。

津波は、水平方向に非常に速く進みます。沖合では飛行機ほどの速さで、陸に近づいて遅くなっても、人が全力で走る速さを上回ります。水平に競争しても勝てません。

ですから、逃げる方向は横ではなく上です。

  • 近くの高台
  • 津波避難タワー
  • 鉄筋コンクリートの建物の3階以上(津波避難ビル)

「もっと高いところまで行けるか」だけを考えてください。距離ではありません。

警報を待たないでください

津波の到達までの時間は、場所によって大きく違います。遠い震源なら数十分の余裕がありますが、震源が近ければ数分です。

南海トラフの想定では、地震が起きてから数分で第一波が届く地域があります。スマホで警報を確認してから動いていては、間に合いません。

判断の基準はこれだけで十分です。

海の近くで、立っていられないほど揺れたら、揺れが収まり次第すぐ高い所へ。

警報は、逃げながら確認するものです。

「津波てんでんこ」の本当の意味

三陸地方に古くから伝わる言葉に、津波てんでんこがあります。「各自がてんでんばらばらに逃げろ」という意味です。

家族を置いて逃げろというのは、冷たい教えに聞こえます。ですが、これは実際に起きたことから生まれた言葉です。

家族を探しに戻って、そのまま亡くなった方が大勢いました。迎えに行った人も、待っていた人も、両方が助からないという結果になっています。

この言葉の本当の意味は、見捨てることではありません。

「あの人は必ず逃げている」とお互いに信じられる状態を、前もって作っておくこと。そのうえで、それぞれが最善の行動をとる。これが本来の意味です。

だからこそ、事前の話し合いが要ります。家族でどこへ逃げるかを決めておく方法は防災グッズより大事な「連絡の決め事」にまとめました。

一度逃げたら、戻らない

津波は一度では終わりません。

第一波より第二波、第三波のほうが大きいことがあります。東日本大震災でも、最初の波が引いたあとに戻って被害に遭った例がありました。

水が引いたように見えても、それは次の波の前触れです。警報が解除されるまで、高い場所から降りないでください。

忘れ物を取りに戻る、車を移動させる、様子を見に行く。どれもやめてください。

高さの数字に、安心しないでください

津波警報は3段階に分かれています。

  • 大津波警報……予想される高さ3メートル超
  • 津波警報……1メートル超から3メートル以下
  • 津波注意報……0.2メートル以上1メートル以下

ここで気をつけたいのが、第一報の数字は変わることがあるという点です。地震の規模が正確に分かるまで時間がかかるため、あとから引き上げられることがあります。

そして、高さ1メートルでも人は立っていられません。水の重さは想像以上です。「1メートルなら大丈夫」という判断はしないでください。

津波は、川をさかのぼってきます

見落とされやすいのが、川です。

津波は海岸線で止まりません。河口から川をさかのぼり、数キロ内陸まで届くことがあります。東日本大震災では、海から10キロ以上離れた場所まで到達した川がありました。

川の中は障害物が少ないため、陸地を進むより勢いが落ちません。「海から離れているから大丈夫」という感覚が、ここでは通用しません。

川沿いにお住まいの方、川沿いの道をよく通る方は、2つだけ覚えてください。

  • 川に沿って逃げない……上流へ走っても、津波も一緒に上ってきます
  • まず川から直角に離れる……そのうえで高い場所へ向かいます

橋を渡って逃げる計画も、見直しておいてください。橋の上は高さがあるように見えますが、逃げ場のない場所です。

どこへ逃げるか、今日決めておく

津波が来てから探していては間に合いません。

まず、自分の家と職場が浸水想定区域に入っているかを確認します。自治体のハザードマップに、津波の浸水想定が色で示されています。見方はハザードマップの見方を3分でに書きました。

そのうえで、次の3つを決めてください。

  • いちばん近い高い場所はどこか
  • そこまで歩いて何分か(実際に歩いてみる)
  • 夜でも、停電していてもたどり着けるか

昼間に下見した道が、夜には別の場所のように見えます。暗い中を歩けるかどうかまで確認しておいてください。

車で逃げるべきか

原則は徒歩です。

理由は渋滞です。みんなが同じことを考えて車を出すと、道路が詰まります。動けない車の中にいるのが、いちばん危険な状態です。

ただし、歩くのが難しい方や、高台までの距離がある地域では、車を使う前提で計画している自治体もあります。お住まいの自治体の方針を確認してください。一律に決められる話ではありません。

今日1つだけやるなら、これ

自宅からいちばん近い「高い場所」を1つ決めてください。

高台でも、津波避難ビルでも、丈夫な建物の3階以上でもかまいません。名前が出てくる場所を1つ持っておくことが大事です。

海から離れた場所にお住まいでも、旅行や帰省で海沿いに行くことがあります。そのときに「高い所へ」と考えられるかどうかです。

今日のチェックリスト

  • 自宅が津波の浸水想定区域か確認した
  • いちばん近い高い場所を決めた
  • そこまで歩いて何分か測った
  • 夜でも行けるか考えた
  • 家族に「お互い逃げる」と伝えた
  • 一度逃げたら戻らないと決めた

まとめ

津波から逃げる原則は、「遠く」ではなく「高く」です。水平では速さで勝てません。

警報を待たず、揺れが収まったらすぐ動く。そして一度逃げたら戻らない。

津波てんでんこは、見捨てる教えではありません。お互いが逃げていると信じられる関係を、前もって作っておくという意味です。その話し合いは、今日できます。


次に読むべき記事

「どれくらいの被害が想定されているのか」
→ 南海トラフ地震の被害想定|死者29万8千人という数字の意味

「浸水想定の見方は、こちらです」
→ ハザードマップの見方を3分で

「地震が起きた瞬間、何をするか」
→ 地震が起きたらまず何をする?

「家族との決め事は、先に済ませておく」
→ 防災グッズより大事な「連絡の決め事」

「他の記事も見てみたい方は、目的別の目次からどうぞ」
→ 防災、何から始める?目的別の記事まとめ

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