年末年始は、普段しないことをする時期です。高い所を掃除して、久しぶりに餅を食べて、実家に帰る。
事故の中身も、それに合わせて変わります。しかも12月と1月で違います。
東京消防庁の集計では、掃除中の事故で救急搬送された人は12月だけで618人。他の月は265〜390人なので、12月だけ突出しています。そして餅による窒息は1月です。
結論:12月は転落、1月は窒息です
消費者庁が令和7年12月に公表した資料から、2つの数字を挙げます。
1つめ。東京消防庁管内で掃除中の事故により救急搬送された人は、過去5年間で4,000人以上、令和6年中には約900人です。令和2年から6年の月別(4,268人)を見ると、こうなります。
- 1月 278人/2月 265人/3月 289人/4月 308人
- 5月 355人/6月 333人/7月 390人/8月 368人
- 9月 315人/10月 375人/11月 374人
- 12月 618人
11月の374人から12月の618人へ、1か月で1.65倍です。大掃除をする月とそのまま重なります。
2つめ。東京消防庁によると、令和元年から令和5年までの間に、餅(団子なども含む)による窒息事故で353人の高齢者が救急搬送されており、1月に多くなっています。消費者庁はこれを「餅の事故の約4割は1月に発生」とまとめています。
やることが変わると、事故も変わる。それだけのことですが、月が分かっていれば先に手が打てます。
12月の事故:掃除中に落ちる
掃除中の事故4,268人のうち、「ころぶ」事故が4割以上と最も多くなっています。そして6割以上が60歳以上です。
年代別の内訳はこうです。
- 29歳以下 353人(8.3%)
- 30〜59歳 1,168人(27.4%)
- 60〜79歳 1,643人(38.5%)
- 80歳以上 1,104人(25.9%)
60歳以上が64.4%を占める一方で、30〜59歳も1,168人います。高齢者だけの話ではありません。
消費者庁が挙げている実際の事故
- 自宅で椅子に乗って台所の掃除をしていたところ、椅子から転落した(80歳代女性)
- クーラーの掃除をしていたところ、脚立から転落して、右肋骨部を打撲した(80歳代女性)
- 窓拭きをしていると、脚立から滑って後ろ向きに転落し、頭と腰を打った(80歳代男性)
1件目に注目してください。脚立ではなく、椅子です。
普段使っている椅子は、上に乗ることを想定した道具ではありません。座面が回る、キャスターが付いている、背もたれに体重がかかると傾く。どれも落ちる条件です。
消費者庁の対策は3つ
- 高い所の作業を行う場合は身体のバランスを取りやすい用具を使い、安定した場所で無理なく行う。踏み台などを使っての作業も安定した場所で行う
- 滑りやすい場所で掃除をする際には転倒に注意し、足場が濡れている場合は事前に拭き取る
- 年齢や個々の体力を勘案し、無理な作業は控える
3つめが、いちばん実行されにくいところです。「去年はできた」は理由になりません。
1月の事故:餅を詰まらせる
厚生労働省の人口動態統計(令和6年)によると、「気道閉塞を生じた食物の誤えん」による死亡者数は4,383人。そのうち65歳以上が3,992人で、約91%を占めます。
年代別はこうです。
- 14歳以下 11人(0.3%)
- 15〜64歳 380人(8.7%)
- 65〜79歳 1,102人(25.1%)
- 80歳以上 2,890人(65.9%)
80歳以上だけで3分の2です。
なぜ高齢者に起きるのか
消費者庁は、加齢による口内や喉の変化を4つ挙げています。
- 歯の機能が衰え、噛む力も弱くなる(奥歯がなくなったり入れ歯になったりすることで、顎を安定させる力が低下し、そしゃく力や飲み込む力が低下します)
- 唾液の量が少なくなる(食べた物をスムーズに飲み込みにくくなります)
- 飲み込む力が弱くなる(食べ物を飲み込んでも、喉に残る分が生じやすくなります。喉に食べ物が残ったまま息を吸い込むと、食べ物が気道に詰まることもあります)
- 咳などで押し返す力が弱くなる(万が一、喉に食べ物が詰まったときに、咳などで押し出しにくくなります)
最後の1つが重い意味を持ちます。詰まったあとに自力で出す力も落ちている、ということです。
「久しぶりに食べる」が効いています
消費者庁はこう書いています。お正月に食べる雑煮などの餅は、久しぶりに食べる場合が多く、食べ慣れていないので注意が必要です。
毎日食べているものではないから、噛む量も飲み込み方も体が覚えていない。年に1回だから危ない、という構図です。
餅を食べるときの4つ
- 餅は、小さく切り、食べやすい大きさにする
- お茶や汁物などを飲み、喉を潤してから食べる(ただし、よく噛まないうちにお茶などで流し込むのは危険です)
- 一口の量は無理なく食べられる量にする
- ゆっくりとよく噛んでから飲み込む
そして周りの人は、高齢者が餅を食べる際に、少なめの量を口に入れているか、しっかり噛んで食べているかなど、食事の様子に注意を払って見守ってください。
カッコの中が大事です。喉を潤すのは食べる前であって、詰まりかけたものをお茶で流し込むのは逆に危険です。
詰まらせたときの手当
消費者庁は、対処法として日本医師会の「救急蘇生法 気道異物除去の手順」を案内しています。以下はその記載に沿ったものです。
反応がある場合
呼びかけに応じることができる場合です。まず背部叩打法を試し、効果がなければ腹部突き上げ法を試します。異物が取れるか、意識がなくなるまで続けます。
背部叩打法は、患者の後ろから、手のひらの基部で、左右の肩甲骨の中間あたりを力強く何度も叩きます。
腹部突き上げ法は、こうです。
- 患者の後ろに回り、ウエスト付近に手を回す
- 一方の手で「へそ」の位置を確認する
- もう一方の手で握りこぶしを作り、「へそ」の上方で、みぞおちより十分下方に当てる
- 「へそ」を確認した手で握りこぶしを握り、手前上方に向かって突き上げるように圧迫する
妊婦や乳児には、腹部突き上げ法は行いません。
腹部突き上げ法を実施した場合は、救急隊にその旨を伝えるか、医師の診察を受けさせてください。内臓を傷めている可能性があるためです。
反応がなくなった場合
ぐったりして反応がなくなった場合は、心停止に対する心肺蘇生の手順を開始します。救助者が一人の場合は119番通報を行い、AEDが近くにあると分かっていればAEDを取りに行ってから心肺蘇生を開始します。
文章で読んでも、その場では手が動きません。本当に備えるなら、消防署の救命講習を受けてください。年末年始に高齢の家族と過ごす予定があるなら、それがいちばん確実な準備です。
お風呂は、もう1つの大きな山です
消費者庁の同じ資料は、浴室での溺水も扱っています。令和6年に浴槽内での溺死・溺水で亡くなった方は7,776人、うち65歳以上が7,363人で約95%。65歳以上の交通事故による死亡者数2,103人の3倍以上です。
東京消防庁でも、令和5年に溺れる事故で460人の高齢者が救急搬送され、1月78人・12月85人に対して8月は11人と、冬場に大きく増えています。
こちらはお風呂の事故は11月から倍増しますに詳しくまとめました。年末年始に実家に泊まるなら、脱衣所の温度も見てください。
帰省したときに見る5か所
年末年始は、普段入らない家に入る機会でもあります。見ておくと意味がある場所を挙げます。
- 脱衣所と浴室の温度……温度計があるか。18度を下回っていないか(お風呂の事故)
- こたつと電気カーペットのコード……家具の脚で踏んでいないか(こたつ・電気毛布の事故)
- 冷蔵庫や洗濯機の裏のコンセント……ほこりがたまっていないか(コンセントのほこりで火事になる)
- 給湯器の給排気口……雪や物でふさがれていないか(雪の事故で最も多い製品は給湯器です)
- 物置の灯油……去年のものが残っていないか(去年の灯油は使えません)
どれも5分で見られます。言い方の工夫は高齢の親に防災を伝えるコツにまとめています。
よくある質問
餅を小さく切れば安全ですか
安全とは言えません。消費者庁が挙げているのは4つで、小さく切るのはそのうちの1つです。喉を潤してから食べる、一口の量を無理のない量にする、ゆっくりよく噛む。この4つがそろって初めてリスクが下がります。
若い人は関係ありませんか
掃除中の事故では、30〜59歳が1,168人(27.4%)搬送されています。窒息のほうは65歳以上が約91%なので、こちらは明確に高齢者の問題です。事故によって事情が違います。
脚立と踏み台、どちらがいいですか
公的資料はどちらが良いとは書いていません。消費者庁の書き方は「身体のバランスを取りやすい用具を使い、安定した場所で無理なく行う」です。高さと安定性で選んでください。はっきりしているのは、椅子で代用しないことです。
掃除は何時にやるのがいいですか
時間帯についての記載は、公的資料に見当たりませんでした。分かっているのは月(12月)だけです。
濡れた床の掃除はどうすればいいですか
消費者庁は、滑りやすい場所で掃除をする際は転倒に注意し、足場が濡れている場合は事前に拭き取るよう挙げています。洗い場や窓まわりは、先に水を拭いてから足場にしてください。
餅以外にも気をつけるものはありますか
統計の分類は「気道閉塞を生じた食物の誤えん」で、餅に限りません。消費者庁が餅を取り上げているのは、1月に集中するからです。普段食べ慣れないものを急いで食べる場面が、年末年始には増えます。
今日1つだけやるなら、これ
大掃除を始める前に、踏み台か脚立が家にあるかを確認してください。
なければ、当日に「椅子でいいか」となります。消費者庁が挙げた事例の1件目が、まさに椅子からの転落でした。掃除を始めてから道具を探すのでは遅いので、始める前の今です。
12月の搬送が11月の1.65倍になるのは、道具が足りないまま高い所に登る人が増えるからだと考えると、やることははっきりします。
今日のチェックリスト
- 踏み台か脚立が家にあるか確認した
- 椅子に乗って掃除をしないと決めた
- 濡れた足場は先に拭くと決めた
- 無理な高さの掃除は人に頼むか諦めると決めた
- 餅は小さく切ると決めた
- 食べる前に汁物で喉を潤すと家族に伝えた
- 高齢の家族が食べる様子を見守ると決めた
- 気道異物除去の手順を読んだ
- 救命講習の予定を調べた
まとめ
年末年始の事故は、12月と1月で中身が違います。
12月は掃除中の転落です。搬送は618人で、他の月の1.6〜2.3倍。「ころぶ」が4割以上、6割以上が60歳以上。椅子に乗らないこと、濡れた足場を先に拭くこと、無理をしないこと。
1月は餅の窒息です。食物の誤えんによる死亡は年間4,383人で、65歳以上が約91%。小さく切る、喉を潤してから食べる、一口を無理のない量にする、ゆっくり噛む。そして見守ること。
どちらも、やることが変わるから起きる事故です。だから、やることが変わる前に手を打てます。
そして帰省は、実家の危ない場所を見る数少ない機会でもあります。5分だけ、脱衣所とコンセントとコードを見てきてください。
