お風呂の事故は、冬に集中して起きています。しかも増えはじめるのは真冬ではなく、11月です。
消費者庁が厚生労働省の調査票情報を独自に集計した結果では、高齢者が浴槽内で溺れて亡くなった月別の人数は10月が234人、11月が458人。1か月でほぼ倍になっています。その先は12月737人、1月937人とさらに増えます。
つまり、対策をするなら11月に入る前の今が最後のタイミングです。この記事では、浴室暖房がない家でも今日からできることを、公的機関が出している資料の記載に沿って整理します。
結論:10月から11月で、ほぼ倍になります
まず数字を見てください。令和元年に高齢者が浴槽内での不慮の溺死・溺水で亡くなった人のうち、発生月が分かっている4,738件の内訳です。
- 1月 937人
- 2月 624人
- 3月 509人
- 4月 455人
- 5月 286人
- 6月 166人
- 7月 134人
- 8月 100人
- 9月 98人
- 10月 234人
- 11月 458人
- 12月 737人
1月は8月の9倍以上です。そして10月から11月にかけて234人から458人へ、ほぼ倍に増えています。消費者庁はこれを「1月をピークに11月~4月、特に冬季に多く発生しています」とまとめています。
直近の数字も出ています。令和6年に「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」で亡くなった人は7,776人。そのうち65歳以上が7,363人で、約95%を占めます。比較のために挙げると、65歳以上の交通事故による死亡者数は令和5年で2,116人でした。
さらに注意したいのは、この7,776人は死因が「溺死」と記録された分だけだという点です。入浴中の急死には、心疾患や脳血管障害などの病死と判断されるものも含まれます。厚生労働科学研究費補助金による研究事業では、病死などを含めた全国の入浴中の急死者数を年間約19,000人と推計しています。
つまり、統計に出ている数より実際は多いと見られています。
原因は「家の中の温度差」です
消費者庁は、入浴中の事故が起きる仕組みをこう説明しています。
暖かい部屋から温度の低い脱衣所、浴室に入ることで血圧が上がり、その後、温かい湯に入ることで血圧が低下します。この急激な血圧の変動が、意識を失う原因になります。高齢になると血圧を正常に保つ機能が低下するため、寒暖差で血流量が減り、意識を失うことがある、とされています。
これが浴槽の中で起きると、溺れてしまいます。
寒い家ほど、熱い湯に入ってしまう
ここに、もう一段の問題があります。国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進事業の全国調査では、居間や脱衣所が18度未満の住宅では、湯温42度以上の「熱め入浴」が増加するという結果が出ています。
寒い家に住んでいる人ほど、体を温めようとして熱い湯に入る。つまり温度差が大きいうえに湯温も高いという、二重に危ない状態になりやすいということです。
熱い湯に長くつかると、体温が上がりすぎる
消費者庁は、42度の湯に10分入浴すると体温が38度近くに達するとしています。高体温による意識障害で浴槽から出られなくなったり、浴槽内にしゃがみ込んだりして溺水するおそれがあります。
血圧の変動と、体温の上がりすぎ。原因は2つあると考えてください。
持病がなくても起こります
消費者庁は「入浴中の事故は、持病がない場合や前兆がない場合でも起こるおそれがあります」と明記しています。「自分は元気だから大丈夫」と考えないことが大切だとしています。
浴室暖房がない家で温度差を小さくする
対策の基本は、入浴前に脱衣所や浴室を暖めることです。ただ、浴室暖房がない家も多いはずです。消費者庁は暖房設備がない場合の工夫として、次の2つを挙げています。
- 湯を浴槽に入れるときに、シャワーから給湯する
- 浴槽の湯が沸いたところで十分にかき混ぜて蒸気を立て、蓋を外しておく
どちらも蒸気で浴室全体を暖める方法です。給湯の蛇口からためるのではなく、高い位置のシャワーから出せば、湯が落ちる間に蒸気が広がります。追い炊きの場合は、沸いたあとに蓋を外して蒸気を立てておきます。
あわせて、湯につかる前のかけ湯を入念に行うことも挙げられています。いきなり肩までつかるのではなく、足から順にかけ湯をして体を慣らすということです。
家全体を暖めるほうが効く
消費者庁は、部屋間の温度差をなくすために居室だけでなく家全体を暖かくすることが重要で、二重サッシにするなどの断熱化も有効だとしています。脱衣所だけを暖めるより、廊下や脱衣所に寒い場所を残さないほうが効果があるという考え方です。
脱衣所に暖房器具を置くときの注意
脱衣所に電気ストーブを持ち込むのは有効ですが、脱衣所は衣類やタオルが近くにある場所です。電気ストーブは炎が出ないため油断しやすいのですが、布や紙が近づくと発火します。詳しくは電気ストーブで布団は燃えますでまとめています。
もう1つ、脱衣所は洗濯機があるためコンセントが埋まりがちで、延長コードやタコ足配線になりやすい場所です。湿気の多い場所でほこりがたまると発火することがあります。こちらはコンセントのほこりで火事になるで説明しています。
湯温41度以下、10分まで
消費者庁が挙げている目安は、湯温は41度以下、湯につかる時間は10分までです。これは厚生労働科学研究費補助金による研究報告書の「安全な入浴の手引き」で推奨されている目安が根拠になっています。
そして消費者庁は、この湯温と入浴時間を温度計やタイマーで「見える化」することをすすめています。体感では41度と43度の区別はつきません。数字で見えるようにするのが確実です。
浴槽から急に立ち上がらない
入浴中は湯で体に水圧がかかっています。その状態から急に立ち上がると水圧がなくなり、圧迫されていた血管が一気に拡張して脳に行く血液が減り、一過性の意識障害を起こすことがあります。
浴槽から出るときは、手すりや浴槽のへりを使ってゆっくり立ち上がる。これだけで防げる場面があります。熱い浴槽内から急に立ち上がったときにめまいや立ちくらみを起こす人は、特に注意が必要だとされています。
食後すぐ・飲酒後・医薬品服用後は避ける
食後に血圧が下がりすぎる食後低血圧で失神することがあるため、食後すぐの入浴は避けます。飲酒でも一時的に血圧が下がるので、アルコールが抜けるまで入浴しないようにします。精神安定剤や睡眠薬などの服用後も避けるよう示されています。
入浴前に一声掛ける
入浴中に異変があったとき、早く見つけてもらえるかどうかで結果が変わります。消費者庁は、入浴する前に同居者に一声掛けることを対策の1つに挙げています。
同居者の側は、長時間入浴している、音がしない、突然大きな音がしたといった異常に気付いたら、ためらわずに声を掛けます。
この「声を掛ける」が家族相手にいちばん難しいところです。言い方の工夫は高齢の親に防災を伝えるコツにまとめています。
寒波の日と停電の日は、さらに注意
消費者庁は、寒さが厳しくなると温度差により事故のリスクが高まる可能性があるとして、気象予測情報も参考にするようすすめています。関連サイトとして気象庁の気象情報と、日本気象協会のtenki.jpが出している「ヒートショック予報」を案内しています。家の中でのリスクの目安が地域別に分かります。
寒波が来る日は、水道管の凍結対策と一緒に考えるとまとめて済みます。凍結は水道管の凍結を防ぐで解説しています。
もう1つ、停電すると浴室暖房も給湯器も止まります。冬の停電で暖房が全部止まったときの動き方は冬に停電したらにまとめました。停電の日は入浴を見送る判断も含めて考えてください。
浴槽でぐったりしている人を見つけたら
消費者庁が示している対応手順です。覚えておくと動けます。
- 浴槽の栓を抜く。大声で助けを呼び、人を集める
- 浴槽から出せるようであれば救出する。出せないようであれば、蓋に上半身を乗せるなどして沈まないようにする。直ちに救急車を要請する
- 浴槽から出せた場合は、肩をたたきながら声を掛け、反応があるか確認する
- 反応がない場合は呼吸を確認する
- 呼吸がない場合には胸骨圧迫を開始する
- 人工呼吸ができるようであれば、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰り返す。できなければ胸骨圧迫のみ続ける
最初が「栓を抜く」である点が大事です。体を引き上げられなくても、湯がなくなれば溺れません。消費者庁は、いざというときのために救命講習を受けておくこともすすめています。
よくある質問
若い人なら関係ありませんか
人口10万人当たりの死亡者数で見ると、年代が上がるにつれて増えています。令和元年の男性では65~69歳が5.7人、75~79歳が18.0人、90歳以上が52.7人です。たしかに高齢になるほど多くなります。
ただ消費者庁は、持病がない場合や前兆がない場合でも起こるおそれがあるとしています。年齢で線を引けるという書き方はされていません。温度差を小さくする対策は、同居している家族全員に効きます。
シャワーだけなら安心ですか
消費者庁の注意喚起は、浴槽内での溺水を中心にしたものです。湯につからなければ、溺れるという事故そのものは起きにくくなります。
ただし脱衣所と浴室の温度差は、シャワーでも生じます。暖める工夫を省いていい理由にはなりません。
一番風呂は避けたほうがいいですか
消費者庁の資料に「一番風呂を避ける」という記載はありません。ただ、誰かが先に入っていれば浴室が蒸気で暖まっているため、結果として温度差は小さくなります。
暖房のない浴室で一番風呂に入るなら、蓋を外して蒸気を立てる、シャワーから給湯するといった工夫をしてから入ってください。
追い炊きは危なくないですか
消費者庁が公表している事例に、追い炊きに関するものが2件載っています。いずれも令和元年12月で、80歳代の方が浴槽内で意識を失い、湯がかなり熱い状態で深い熱傷を負って亡くなっています。手動の追い炊き式では、湯温が上がりすぎることがあります。
追い炊きを使う家庭では、温度計で湯温を確認する習慣が特に重要です。
ヒートショック予報はどこで見られますか
日本気象協会のtenki.jpで公開されています。消費者庁が注意喚起の関連サイトとして案内しているものです。気象の予測から、家の中でのリスクの目安が分かります。
今日1つだけやるなら、これ
脱衣所と浴室に温度計を置いてください。
国土交通省の調査では、居間や脱衣所が18度未満の住宅で熱め入浴が増えていました。18度という基準があるのに、ほとんどの家は脱衣所の温度を測っていません。測らないと、自分の家の温度差がどれくらいなのか分からないままです。
数百円の温度計で、対策が必要な家かどうかが判断できます。暖房器具を買うより先に、これです。
今日のチェックリスト
- 脱衣所と浴室に温度計を置いた
- 浴室を暖める方法を決めた(シャワーから給湯する/蓋を外して蒸気を立てる)
- 湯温41度以下・10分までを家族で共有した
- 浴槽から立ち上がるときに使える手すりかへりを確認した
- 入浴前に一声掛ける習慣にした
- 脱衣所の暖房器具のまわりに衣類やタオルがないか見た
- 浴槽でぐったりしている人を見つけたときの手順を読んだ
まとめ
お風呂の事故は10月から11月でほぼ倍になり、1月にピークを迎えます。令和6年は7,776人が亡くなり、その約95%が65歳以上でした。病死を含めた入浴中の急死は年間約19,000人と推計されています。
原因は家の中の温度差と、湯温の高さです。浴室暖房がなくても、シャワーから給湯する、蓋を外して蒸気を立てる、かけ湯を入念にする、という工夫で温度差は小さくできます。湯温41度以下・10分までを温度計とタイマーで見えるようにして、入浴前に一声掛ける。ここまでが今日できることです。
11月に入ると数字が動きます。間に合ううちに準備してください。
なお、体調や持病によって注意すべき点は変わります。気になる症状がある場合は、医療機関に相談してください。
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