雪が降ると、まず心配するのは車だと思います。ですが救急車で運ばれているのは、歩いていた人です。
東京消防庁の集計では、積雪や凍結路面で滑って転倒した事故で、過去5年間に801人が救急搬送されています。
そして運ばれているのは、雪が降っている最中の人だけではありません。
結論:危ないのは、降った日だけではありません
東京消防庁は「積雪や凍結路面に係る救急事故」として、毎年12月から3月までの救急搬送を集計しています。数字はこうです。
- 過去5年間の救急搬送人員 801人(東京都のうち稲城市、島しょ地区を除く)
- 降雪時と、降雪後の数日間に発生している
- 午前7時、午前8時で多い
- 3割以上が中等症以上と診断された
2つめが、この記事でいちばん伝えたいところです。雪がやんで青空になった翌朝も、その次の日も、搬送は続いています。
東京消防庁が挙げている事例にも、「数日前の雪で滑って転倒し、腰部を受傷した」(30代、中等症)というものがあります。数日前の雪です。
踏み固められた雪や、昼に解けて夜に凍り直した水は、降った日より滑ります。「もう降っていないから大丈夫」は、いちばん危ない判断です。
50代から増えます
もう1つ、意外に知られていない特徴があります。
東京消防庁は、通常の転倒事故は65歳以上が多いものの、積雪時は50代から増加するのが特徴だとしています。搬送が多いのは50歳から84歳です。
理由として断定はされていませんが、搬送が午前7時・8時に多いことと合わせて読むと、通勤や通学で外に出る時間帯と重なっていることが分かります。家にいる時間が長い人より、朝に出かける人のほうが路面に出会うということです。
実際の事例に、通勤途中に凍った路面で足を滑らせて転倒し、足を負傷した55歳男性(重症)のケースがあります。
「転倒は高齢者の話」と思っていると、対象から自分が外れます。50代は外れません。
転んで打つだけでは済まないことがあります
搬送された人の3割以上が、中等症以上と診断されています。東京消防庁と東京都が公表している事例を見てください。
- 通勤中、歩道橋の上で凍結路面に滑って転倒し、腰部を受傷(70代、中等症)
- 数日前の雪で滑って転倒し、腰部を受傷(30代、中等症)
- 7時15分ごろ、散歩中に凍結路面でバランスを崩し、後ろ向きに転倒して後頭部を打撲(81歳男性、重症)
- 6時30分頃、犬の散歩中に積雪で滑って転倒し、左手を地面についてけが(59歳女性、中等症)
後ろ向きに転ぶと、手が出ません。そのまま後頭部を打ちます。年代も30代から81歳まで幅があります。
滑りやすいのは「人や車が多く通る場所」
雪が深く積もっているところより、踏み固められたところのほうが滑ります。東京都は「人や車が多く通る場所は、雪が踏み固められ滑りやすくなります」としています。
つまり、人の少ない裏道より、駅前やバス停の前、横断歩道のほうが危ないということです。歩道橋の上で転倒した事例もありました。階段と、人が通る場所が重なります。
残雪と凍結路面は避けて通る。東京消防庁も、天候を事前に確認し、残雪や凍結路面を避けて時間に余裕を持って行動するよう挙げています。
歩幅を小さく、靴裏全体をつける
歩き方について、公的機関が挙げているのは次のとおりです。
東京消防庁は「足元に気を配り、ゆっくり歩く」、東京都は「歩幅を小さくしてゆっくり歩く」としています。
札幌市はもう少し踏み込んで説明しています。歩幅が大きいと足を高く上げなければならず、重心移動(体の揺れ)が大きくなって転倒しやすくなる、というものです。
そして、靴裏全体を地面につけて歩くこと。ただし札幌市は「完全に地面を擦りながら歩くとつまづきの原因にもなるので、軽く足を浮かせて歩きましょう」とも書いています。すり足にしすぎないという注意です。
もう1つ、札幌市は「ながら歩き」を挙げています。スマートフォンを見ながら歩くと、周囲や路面への注意力が薄れます。
両手をあけておく
これは見落とされがちですが、効きます。
東京都は、ポケットに両手を入れたり荷物で両手がふさがっていたりすると、転倒時に身を守れず、けがにつながることがあるとしています。
そして「転倒した際の保護のために、手袋や帽子を身につけましょう」と書かれています。手袋は防寒のためだけではなく、手をついたときに守るための装備でもあるということです。
寒い日ほどポケットに手を入れたくなりますが、そこが分かれ目になります。手袋を玄関に出しておいてください。
靴より先に、時間です
靴については、東京消防庁も東京都も「滑りにくい靴を選ぶ」としています。靴の種類ではなく、靴底で選ぶという意味です。
ただ、雪が降ってから靴を買いに行くのは現実的ではありません。それより効くのは、家を出る時間です。
搬送が午前7時・8時に集中している以上、原因の一部は「急いでいること」です。東京消防庁も時間に余裕を持って行動するよう挙げています。時間に余裕があれば、滑りそうな場所を迂回できます。
雪国では桁が違います
雪に慣れていれば転ばないのか、という疑問があると思います。数字を見てください。
札幌市消防局のデータをウインターライフ推進協議会がまとめたものによると、令和6年度は12月から3月までの救急搬送者が1,813人、11月を含めると1,869人で、過去最多となりました。
東京が5年間で801人、札幌は1シーズンで1,813人です。慣れていても、路面が凍れば転びます。
札幌市も、午前7時から正午頃にかけて通勤・通学・通院で外出する人が多くなり、転倒事故による怪我で救急搬送される方も多くなる傾向にある、と説明しています。朝に集中するという構図は、東京と同じです。
けがの数では、歩行中が雪かきを上回ります
雪の事故というと、雪下ろしや雪かきの印象が強いと思います。ここは分けて考える必要があります。
消費者庁と国民生活センターの医療機関ネットワーク事業には、平成22年12月から令和3年11月までの11年間に、雪に関する事故情報が88件寄せられています。内訳はこうです。
- 雪道や凍結した路面を歩いたり、自転車に乗っている最中に滑るなどした事故 46件
- 除雪作業や雪囲いの作業中の事故 35件
- 雪遊び中の事故 5件
- 歩行中の落雪 1件
- 車周辺に積雪がある状態でエンジンをかけて一酸化炭素中毒になった事故 1件
けがの件数では、歩行や自転車が最も多くなっています。
一方、亡くなる事故は構図が違います。総務省消防庁の集計では、令和2年11月から令和3年4月までの雪害による死者110人のうち、95人(86%)が屋根の雪下ろし等の除雪作業中で、65歳以上が91人と8割以上を占めていました。
死亡事故は除雪、けがは歩行。この2つは別の対策が要ります。雪下ろしのほうは雪下ろしの事故にまとめています。
よくある質問
長靴なら滑りませんか
東京消防庁も東京都も「滑りにくい靴を選ぶ」という書き方をしており、長靴やブーツといった種類で勧めてはいません。見るのは靴底です。長靴でも靴底が平らにすり減っていれば滑ります。公的資料に製品の具体的な基準までは書かれていないので、滑りにくいと明記されているものを選んでください。
雪がやんだ翌日なら大丈夫ですか
大丈夫とは言えません。東京消防庁は、降雪時と降雪後の数日間に発生しているとしています。事例にも「数日前の雪で滑って転倒」(30代、中等症)があります。やんでから数日は、同じ警戒を続けてください。
なぜ朝に多いのですか
東京消防庁の集計では午前7時・8時に搬送が多くなっています。札幌市は、午前7時から正午頃にかけて通勤・通学・通院で外出する人が多くなるためと説明しています。路面が最も凍る時間帯と、人が外に出る時間帯が重なります。
自転車は乗ってもいいですか
医療機関ネットワークの46件は「雪道や凍結した路面を歩いたり、自転車に乗っている最中に滑るなどした事故」で、自転車も含まれています。歩行と同じ扱いで考えてください。
転んだあと、痛みがなければ放っておいていいですか
搬送された人の3割以上が中等症以上と診断されています。事例にも、後ろ向きに転倒して後頭部を打撲した81歳男性(重症)があります。頭を打った場合や、痛みが続く場合は医療機関を受診してください。
家族にどう伝えればいいですか
「転倒は高齢者の話」と思っている人ほど外れます。積雪時は50代から増えるという点と、朝7時・8時に集中しているという点を伝えてください。伝え方は高齢の親に防災を伝えるコツにまとめています。
今日1つだけやるなら、これ
天気予報に雪のマークが出たら、その日だけでなく翌日と翌々日の朝も、家を出る時間を15分早めると決めてください。
搬送が集中しているのは午前7時・8時で、発生しているのは降雪時と降雪後の数日間です。この2つが重なるのが、雪の翌朝と翌々朝の通勤時間です。
靴を買い替えるのは、そのあとでかまいません。まず、急がなくていい状態をつくるほうが先に効きます。
今日のチェックリスト
- 手持ちの靴で、靴底が滑りにくいものがどれか確認した
- 雪の予報が出たら、翌日と翌々日も早く家を出ると決めた
- 手袋を玄関に出した
- 通勤路の歩道橋・坂・駅前など、人通りの多い場所を思い出した
- 両手がふさがらないよう、かばんの持ち方を見直した
- 家族の50代以上の人に、50代から増えることを伝えた
- 雪下ろしをする予定があるか確認した
まとめ
東京消防庁の集計では、積雪や凍結路面での転倒で過去5年間に801人が救急搬送されています。発生しているのは降雪時と降雪後の数日間、集中しているのは午前7時・8時、そして3割以上が中等症以上です。
積雪時は50代から増えます。高齢者だけの話ではありません。
やることは3つです。歩幅を小さくして靴裏全体をつけること。両手をあけて手袋をすること。そして、雪の予報が出た日から数日は、家を出る時間を早めること。
雪が降った日に気をつける人は多いのですが、運ばれているのはそのあとの数日です。そこを覚えておいてください。
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「歩く前に、家の給湯器も見ておいてください」
→ 雪の事故で最も多い製品は給湯器です|給排気口がふさがると何が起きるか

