防災士が解説|乾燥機は油の付いた服で火が出ます|フィルター掃除より先にこれ

乾燥機の火事と聞くと、フィルターの掃除不足を思い浮かべる方が多いと思います。

ところがNITEの集計では、乾燥機の事故でいちばん多い現象は別でした。衣類に残っていた油が、酸化熱で自然発火する。 分析対象101件のうち38件で最多です。

死亡事故も起きています。平成20年12月、福島県の老人ホームで電気衣類乾燥機のあった部屋付近から出火し、2人が死亡、2人が重傷、1人が軽傷を負いました。原因は、オイルが残留したタオルを乾燥させたことと推定されています。

火の気はありません。熱源も要りません。油が付いた布が、勝手に燃えます。


結論:油が付いた布は、洗っても乾燥機に入れない

NITEの注意喚起は、こう書いています。

美容オイル(アロマオイル等)、食用油等が付着したタオルや衣類は、洗濯した後でも乾燥機で乾燥させないでください。

「洗った後でも」がポイントです。洗濯で油は完全には落ちません。残った油が乾燥機の熱で一気に酸化します。

取扱説明書にも書いてあります。事故事例の製品には「食用油などの付着した衣類は洗濯後でも絶対に乾燥しないで下さい。油の酸化熱による自然発火や引火の恐れがあります」と記載されていました。


酸化熱という仕組みです

美容オイル、食用油、動物油などは、空気に触れると酸化して熱が出ます。これを酸化熱といいます。

ふだんは熱が逃げるので問題になりません。ところが布にしみ込んだ状態で、たたんで重ねたり、かごに入れたりすると熱が逃げません。 こもった熱で温度が上がり、さらに酸化が進んで、また熱が出る。この繰り返しで発火に至ります。

天ぷら油の火事とは別物です

天ぷら油が燃えたらにも書きましたが、調理中の油はこんろの火で加熱されて約370度に達して発火します。熱源があります。

乾燥機のほうは違います。電源を切ったあとでも、何もしていなくても、温度が上がっていきます。 これが分かりにくさの正体です。


NITEの実験が、そのまま答えになっています

平成20年12月、NITEが再現実験を行っています。条件はこうです。

  • 綿100%の肌着に、油を50グラムしみ込ませる
  • 家庭用の全自動洗濯機で洗濯する(わざと洗い不足の条件=標準より1キロ多い過負荷、洗剤は標準の約65%)
  • 槽内120度の乾燥機で乾かす(コインランドリーの衣類乾燥機の温度に合わせた設定)
  • 取り出して、洗濯かごにざっくり入れた状態で放置

結果です。

  • 美容オイル……427度に達して発火。乾燥機から出して2時間16分35秒後
  • 食用油……409度に達して発火。1時間54分59秒後
  • 動物系油(ラード)……421度に達して発火。52分11秒後

3種類とも自然発火しました。いちばん早いラードは1時間を切っています。

美容オイルの経過はこう記録されています。放置から5分後にはもう写真が撮られ、2時間を超えて継続的な発煙、2時間16分35秒で自然発火、約2時間20分後には炎に包まれています。

意外なのは、燃えなかったほうです

同じ実験で、機械油、シンナー、ベンジン、ガソリンも試されています。結果は、この4つでは活発な酸化発熱が認められませんでした。

「引火しやすいものほど危ない」という直感と逆です。危ないのは、台所と洗面所にある油のほうでした。


危ないのは「乾燥が終わったあと」です

実験で発火したのは乾燥機の中ではありません。取り出して、洗濯かごに入れたあとです。

乾燥機の中は回転していて熱も逃げますが、かごや洗濯物の山の中は熱がこもります。ここで一気に進みます。

つまり、いちばん危ない使い方はこうなります。

  • 夜に乾燥をかけて、そのまま寝る
  • 朝に乾燥をかけて、たたまずに出かける
  • 乾燥が終わった洗濯物を、かごに山盛りにしたまま放置する

油が付いた布が混じっていなければ起きません。けれど混じっているかどうかは、たいてい分かりません。


どんな油が問題になるか

NITEが挙げているのは、美容オイル(オリーブオイル、アーモンドオイル、グレープシードオイル等)、食用油、動物油です。

生活の場面に置き換えると、こうなります。

  • マッサージオイル、アロマオイル、ボディオイルを使ったあとのタオル
  • エステ、整体、介護の現場で使ったタオル
  • 飲食店のふきん、調理に使った布
  • 焼肉や揚げ物をしたときに油が跳ねた服
  • ベビーオイルを使ったあとのガーゼやタオル

家庭で見落としやすいのは、自分で油を使った自覚がある布ほど、ふつうに洗濯機に放り込んでしまうことです。洗えば落ちると思っているからです。

どうすればいいか

乾燥機にかけず、干してください。 広げて干せば熱はこもりません。

どうしても乾燥機を使いたいなら、NITEは「オイルを完全に除去してください」としています。家庭でそれを確認するのは難しいので、現実的には干すほうが早いです。


フィルターとほこりの話

油がいちばん多いとはいえ、ほこりの問題がないわけではありません。

2004年に、輸入されたガス衣類乾燥機6件の出火事故が報告されています。ドラム後方のカバー内にリント(綿ぼこり)が堆積し、そこにバーナーの炎が着いたと推定されました。

このときすべての事故で、設置後1年から2年の間に排気通路がリントやほこりで詰まり、事故のときにはほぼ閉塞していたことが、消防の調査で確認されています。

特定の製品の話ではありますが、排気がふさがると熱が逃げないという点は共通します。フィルターの掃除は意味があります。順番として、油のほうが先だというだけです。

電源プラグのほこりについても、NITEは定期的に取るよう呼びかけています。こちらはトラッキング現象のほうの話です。


事故の全体像(平成24年5月公表)

数字は少し古いものですが、傾向をつかむのに使えます。

  • 平成18年度から22年度の乾燥機・除湿機の事故……261件
  • うち火災……32件。死亡事故1件(2人)、重傷1件(3人)、軽傷19件(23人)
  • 製品別……電気洗濯乾燥機65件、電気衣類乾燥機48件、ガス衣類乾燥機48件、布団乾燥機38件、除湿機62件
  • 誤使用・不注意によるもの……63件(24%)。ガス衣類乾燥機では48件中21件、約44%

月別では、6月から増え始め、乾燥機は12月から1月に最も多くなります。梅雨と、冬の部屋干しの時期です。

部屋干しが増える季節に入ったら、乾燥機を使う回数も増えます。そこが事故の多い時期と重なります。


よくある質問

ドラム式の洗濯乾燥機でも同じですか

同じです。事故件数でいちばん多いのは電気洗濯乾燥機(65件)でした。洗濯から乾燥まで続けて行う機種は、油が残ったまま乾燥工程に入ります。

コインランドリーでも起きますか

起きます。NITEの実験の槽内温度120度は、市中のコインランドリーの衣類乾燥機の温度をもとに設定されたものです。持ち帰った洗濯物を袋に入れたまま放置するのも、熱がこもる状態です。

一度洗えば大丈夫ではないのですか

実験は洗濯したあとの肌着で行われ、それでも発火しました。しかも洗濯はわざと不十分な条件にしてあります。現実の洗濯も、油に対しては完全ではありません。

乾燥機の中で燃えるのですか

実験では、取り出して放置したあとに発火しました。ただし事故事例には、運転中の電気洗濯乾燥機から白煙が出て洗濯物が焼けたものもあります。どちらも起こり得ます。

洗剤や漂白剤を増やせば落ちますか

油が完全に落ちたかを家庭で確認する方法がありません。確認できない以上、乾燥機に入れない判断のほうが確実です。

柔軟剤のにおいがする程度なら平気ですか

柔軟剤は問題になっていません。注意が必要なのは美容オイル、食用油、動物油です。


今日1つだけやるなら、これ

乾燥機のそばに「油の付いた布は入れない」と書いた紙を貼ってください。

この事故は知識の問題ではなく、思い出すかどうかの問題です。洗濯物を入れる一瞬に思い出せるかどうかで決まります。

家族で使っているなら、なおさらです。油を使った人と、洗濯機を回す人が違うことがあります。


今日のチェックリスト

  • 油が付いた布は洗濯後でも乾燥機に入れないと決めた
  • マッサージオイルやアロマオイルを使ったタオルの扱いを決めた
  • 乾燥が終わったらすぐ取り出して広げると決めた
  • かごに山盛りで放置しないと決めた
  • 寝る前・出かける前に乾燥を終わらせて放置しないと決めた
  • 糸くずフィルターを掃除した
  • 排気口がふさがっていないか確認した
  • 電源プラグのほこりを取った

まとめ

乾燥機の事故で最も多い現象は、衣類に残った油の酸化熱による自然発火です。NITEの分析では101件中38件でした。

NITEの実験では、洗濯したあとの肌着でも、美容オイルで427度、食用油で409度、動物系油で421度に達して自然発火しました。動物系油は52分11秒です。一方で機械油、シンナー、ベンジン、ガソリンでは活発な発熱はありませんでした。

発火したのは乾燥機の中ではなく、取り出してかごに入れたあとです。熱がこもる場所が危ない、ということです。

フィルターの掃除も排気の確保も意味がありますが、順番としては油が先です。

やることは1つだけです。油が付いた布は、洗ったあとでも干す。乾燥機には入れない。


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